- テイルズ -




BOOK
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著:紅サマ

貨物船―
そう呼ばれるこの船は、二人にとっては最高の渡し舟だった
荷物をどかして急遽用意された船室
大よそ人が寝るには悪すぎる環境を受け入れるしかなかった
二人の、それも突然国を訪ねてきた素性もわからない旅人のために船が出た
この環境であっても仕方がないことだった

頭上を数匹のかもめが飛ぶ
船の帆が揺れると、かもめも同じ方向に体を少し傾けた
ガルフは、そんな流れるような空を見ていた


フェン

お前ならどう思うかな

考えてほしくはないけど、考えないといけない

いつまでも逃げるわけにもいかない

あの世界に戻れば、きっとその時、兄ちゃんは・・・・


「なにみへふんへふふぁ?(訳:何見てるんですか?)」
「ん?ああ、フェンか」
両手のひらを頭で組みながら、大きなパンを口にくわえたフェンがガルフに言った
「まったく、パンをくわえながら歩くなんて行儀が悪いぞ?
 まるでお魚くわえた猫じゃないか」
「猫じゃないです!!それにどう思いますか!?
 仮にも国が出してる船なのに支給された食べ物がコレですよ!?しかも一個!」
「仕方ないだろ〜?無理して頼んだんだ。支給されるだけマシさ」
ガルフはフェンのパンを右手で取り上げながら少し諦めた様子で言った
また海の方へ体を向けるとパンと太陽とを重ねて空を見上げた
「パン、か・・・・」
いくら戦時中とはいえ、フェンの身分では残飯のようなパン一枚の支給なんてものは考えられない
もちろんガルフもそうだが、ガルフは食べるどころか手に持ってすらいない
部屋に置いたまま食べなかったようだ
その代わりに、今はフェンのパンが握られている
しかし少し目を離していると、かもめがそのパンを持っていってしまった
「あ」
「あー!僕の昼ごはんが・・・・(泣」
「まさに自然の脅威だな」
「何が脅威ですか・・・・」
がっくりしながらフェンが空を飛ぶパンを見ていた
パンは無情にも空中で半分に裂かれ、複数のかもめ突っつかれながら海へと落ちていった
「にしても柄になく元気ないですね?思わず僕から話しかけちゃったじゃないですか」
「兄ちゃんを心配してくれるのか?フェンは優しいな〜vV(抱」
「わー!!別に心配してるわけじゃないですよ!」

〜3分後〜

「だから、珍しいなって思っただけですよ・・・」
「・・・・なぁ、フェンならどう思う?
 兄ちゃんはやめてもいいのか?」
急なガルフの言葉とさっきまでの表情とはまったく別の、落ち着いた表情
ある意味そんなガルフの行動にも慣れているフェンは普通に答えようとした
「・・・はい?」
しかし、質問の意味がよくわからなくて、結局疑問形になってしまった




十数時間前
イセルの質問に対してガルフはこう答えた
「止める。止めてみせる
 それが大切なものを守る選択なら迷わないだろう」
「本当にできるでしょうか・・・」
イセルの言葉に耳をピクッとさせる
ガルフは少し苦笑いを浮かべるともう一度口を開いた
「・・・・正直なところ、私も止めることはできないかもな。
 現に実行に移したことは今の今までないかもしれない。
 私の守りたいものは私の気付かないうちにどんどん成長するし、強くもなれる」
「そのようですね・・・」
イセルが少し微笑みながらガルフの方を向く
「ああ、もちろん
 自分の弟を守ろうとしない兄なんか、兄失格だ」
「ふふ、確かにそうかもしれませんねw
 きっとあの子もそんな気持ちでここを出て行ったのでしょうね」
「そういえば一つ尋ねてもいいか?」
「ええ、いいですよ」
「訊いてほしくなかった内容なら答えなくてもいい
 息子と夫というのはどのような人物だったんだ?」
少しためらいながらガルフがイセルに尋ねた
予想していたものが的中したかのようにイセルがにこっと笑う
「そうですね・・・・強いて言えば夫はあなた、息子はフェンさんのような子でした
 外見もそうですが、雰囲気が似てる・・・そんな気がします」
「ああ、確かに金髪はたくさんいるしな。青い髪はそこまで多くはないと思うが・・・」
「いえ、そういうことじゃないですよ。大まかに言えば身長とかが、ですね
 もちろん全く同じというわけじゃないですけどね」
笑いながらイセルが訂正する
少し傷んだイスがギシッと小さな音を立てた
「最初にあなた方を見たとき目を疑いました。
 別人だとわかるとすぐに錯覚でないことには気付きました。
 ですがフェンさんが私に挨拶をした時、今度はあなた達を疑ってしまいました。
 髪の色は染めれば変えれる。体は時間が大きくしてくれる。
 実は息子と夫が帰ってきたのじゃないか、なんて思ってしまいました。
 しばらくフェンさんと話している間も他人と話しているのではなく、息子と話している感覚でした。
 だけど見当違いの質問をされるうちに、夢から覚めてきました」
イセルが小さな風で揺れている地図を、机から落ちないようにコップでおさえた
少し古ぼけた地図は簡単に図面を折りながら、コップの下で動かなくなった
大きく折れた折れ目の位置には、くっきりと線がついてしまっている
「完全に目が覚めたのは"地図"です」
「地図?そこで折れている地図のことか?」
「ええ、その"地図"ですよ。
 でも私は地図と言っただけですよ?」
イセルは笑顔でそう言うともう一度イスから腰を上げた
イスは再度ギシッと音を立て、安定した元の姿に戻る
倉庫とも物置ともとれる、階段の下に作られた小さなドア
封印するように閉じている埃がかかったそのドアを開けると、そこからもう一枚"地図"を出す
紙はガルフの目の前で折れた地図よりも新しく、丈夫そうなものだった
「大陸は変わらなくても、街や村に通じる道は変わりますよね?」
そう言いながら、新しく出した地図をさっきの地図の横に置いた
紙の重みで揺れることはなかった
「夫は地図を作っている人だったんですよ。
 それも世界地図です」
なるほど、とガルフが再びまわりを見渡す
「だから目が覚めたんです。あなた方が本当に別人であり、
 子供の命を助けてもらった初対面の旅人だと」
「・・・・これは、新しい地図か」
「ええ、夫が最後に作った型の地図です。
 フェンさんが最初に言った通り、世界地図は命をかけて描くものですから、
 そんなにそこら中にあるわけではありませんからね」
「でもいいのか?」
少しためらいながら、ガルフは続ける
「これは、貴女にとって形見でもあるものでは?」
予感していた言葉に、イセルは戸惑った
「・・・・ええ。
 それに、その地図にも主がいないとかわいそうでしょう?」
一度伏せた顔は、もう一度起き上がると笑顔に変わっていた
裏腹に一粒の雫が頬をたどった
「そうかも・・・しれないな。
 すまなかった、嫌なことを思い出させてしまって・・・」
「いえ、逆ですよ、ガルフさん」
イセルはイスの背もたれに体重をかけながら続けた
「あなたは私が夢を見続けることを止めてくれた。
 守るべきものを残していることにも気付いていない、そんな私を止めてくれた。
 だから、言うべきことはガルフさんの謝罪の言葉なんかじゃない。
 ・・・ありがとう」
その言葉と同時に、もう片方の目からも涙がこぼれた
しかし、何かから解放されたような目をしていた
ガルフは笑顔で小さく会釈をした


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「へ〜・・・・そういうことだったんですか・・・」
フェンが海に浮いたパンを見ながら言った
細かく千切れたパンは空の鳥から海の魚へと、食べられる相手を変えていた
少しため息をつきながらパンを見続けた
「どの世界でもどんな人でも多少の事情は持っているっていうことだな」
「う〜ん・・・そうなるとちょっと気が引けますね」
苦笑しながらフェンが言った
ちょうどその時、最後まで浮いていたパンの欠片が目の前で沈んでいった
「正気・・・兄ちゃんも同じ気持ちかな」
「だからそんなに例の地図を大事に持ってるんですか?」
「ん?そりゃあ旅人に見せることも必要だからな」
「・・・魔物と間違われていてもですか?」
かなり嫌そうにフェンが言った
「仕方ないだろー、ずっっと耳を隠せるぐらいの帽子をかぶってるなんて兄ちゃんはごめんだ」
「だからってモンスターないでしょう?」
「いや・・・モンスターとして見られるのも珍しい体験だと思わないか?」
「思いません」
「そうだ・・・・」
ガルフは少し考えると急に笑い出した
その様子にフェンが思わず後ずさりした
「フェンがそこの船員に両手あげて『ガーッ』ってやって
 船員が逃げたら兄ちゃんもフェンもモンスターって見られてるってわけだw」
いたずらを考え付いたような笑顔のままガルフが言う
その間にフェンは冷めた様子でガルフの後ろに回りこむ
「というわけだw
 じゃあ兄ちゃんは船員が逃げるほうにパンを一枚・・・」
にこにこしながらガルフが指を一本立ててフェンがいた方向に向いた
同時に後ろにいたフェンがポイッとガルフを持ち上げて海へ投げた
何もわからないうちにガルフはボトンと海へ落ちた
「魚の餌になってしまえ!このバカ兄!!
 だから僕はモンスターじゃないと言ってるでしょう!」
顔を赤くして海の方向へと思いっきり叫ぶフェン
「はははwちょっとした冗談じゃないか〜v助けてくれーw」
海面から顔だけ浮かばせてガルフが言う
するとガルフの目の前に大きな氷の塊が現れた
「それにでも捕まっててください
 どうせ目的地は見えてるんです」
「目的地ってあの点にしか見えない島だろー」
「あなたなら大丈夫でしょうv」
にこっとフェンが微笑む
ガルフは氷に捕まると仕方なさそうに
「TP大丈夫だといいんだが・・・」
とフェンが聞こえないくらいの声でつぶやいた
そのままフェンは船の部屋へと戻っていってしまった
「・・・・ん?」
船室に戻ろうとすると、周りで見ていた船員からの視線がより一層違うものとなっていた
「は・・・はははは・・・冗談ですよ、冗談v」
冗談にしては度が過ぎているのでは?と、船員は小声でつぶやいた


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「工場でしょうか?」
「確か・・・なんたらっていうこの世界じゃ有名な会社の工場だったはずだが・・・」
「有名っていうと?」
「レンズだかなんだかを扱っていた会社だったか、そんなようなことを聞いた覚えがある」
「へぇ〜・・・で、そんな会社の工場がなんでこんな場所にあるんでしょうか?」
「さぁ?何らかの事情でもあるんだろうな」
「事情、ですか」
フェンは船で、ガルフは漂着という格好で目的地に到着することとなった
目の前の工場の入り口は使い古された扉と半開きの状態で降りそうにないシャッターで成り立っていた
ほこりと固まった塩がどれだけ使われていないかを想像させた
「で、ここにフラムベルクがいると・・・・・あー考えただけでも気が滅入りますよ」
「そうか?嬉しそうにも見えるけどなー」
「どこがですかっ!あーどうせ怒りの矛先は僕に向けられるんですから・・・」
「死なない程度ならいくらでもやってきそうだしな」
大きくため息をひとつ、頭をがっくり下げたフェン
「本当に使われてないみたいだ、ドアノブが錆びきって動かないぞ」
ガルフは入り口の横のドアに手をかけた
すぐにバキッという音がしてドアノブは根元から取れてしまった
「・・・・・」
「なんでまた壊してるんですか」
「いや、兄ちゃんは壊す気で壊したわけじゃなくて」
「・・・とにかく行きますよ。
 なかにフラムベルクがいるならなるべく急いだ方がいいでしょう?」
先にフェンは工場の中に入っていった

工場の中に入ると入り口とは全く正反対の印象が残る
数年は使われていないように思わせていた工場の中は
荒れてはいるも作業ができる程度には整備されている
ところどころの照明も点灯していて、周辺の機械もきっちり動いていた
まるで周囲に使われていないように思わせるように、細々と起動する機械
(廃工場と聞いたはずなんだがな・・・・)
さっさと進むフェンの後ろでガルフは思った
確実に感じることができる人の気配はそれとは全く矛盾している
ただ、その気配の刺々しさはこの場所がどういうものなのかを教えてくれた
「あーあ・・・また焦げ跡ですよ・・・・確実にいますね;」
「確かにな・・・見られているようだが」
「そうじゃなくてフラムベルクがですよ」
「ん?あ、ああ、それもそうだけどな」
不信感を募らせれば募らせるほど疑問点が浮き上がってくる
今は関係ないと考えればいいことだが、ガルフは心配事が増える一方
「あー、それと監視されてる感じもしますね」
「フェンも思うか?」
「ええ、ちゃっかりカメラが設置してあるところとか殺気とかからですけどね」
「兄ちゃんもそれがさっきから気がかりでな・・・殺気はいいとしても」
「大抵あの人が原因でしょうからね;」
「まぁ怪我しても兄ちゃんが治してやるから安心しなさいw」
「怪我で済めばの話でしょう?」
苦笑いを浮かべてフェンが焦げ跡から光る小さなものを拾った
「ところで、これってなんだと思います?」
「どれどれ・・・」
フェンが持っていたものはレンズと呼ばれていたものだった
「焦げ跡にはほとんどこれが落ちてるんですが」
「うーん・・・なんだろうな?」
「どちらにしても必要なさそうならいいですけど」
「だな、少なからず今は必要ないだろう」
フェンは元の場所にレンズを戻し、また歩き出した
それから数箇所で同じような状態の場所を見かけたが、二人は気にせず素通りした
しばらく歩くと今まで見てきたような機械とは、大きさが全く違うものがあらわれた
エレベータのようで、作りから見ると地下に進むと見られる
「・・・・フェン?」
「はい?」
「一応聞いておくけど・・・覚悟は?」
「あのですね・・・・・・」
入り口と同じようにがっくりとしながらフェンが大きくため息を吐いた
「もともとは兄さんが原因なんですからね!?
それで八つ当たりされる側にもなってくださいよ!」
「ははははwそれは悪いと思ってるよ。だから、一応って言っただろ?」
「だからなんで僕が覚悟しなきゃいけないんですか!全く・・・」
怒りながらフェンがエレベータのボタンを押した
ゆっくりと動き出すと、エレベーターは地下へと進んだ 

エレベーターが止まると鍾乳洞が広がっていた
水が流れる音と雫が水面に落ちる音がまざり、洞内をこだまする
跳ね返る音がここがどれほど静かなのかを物語っていた
「人の気配は・・・ないみたいですね」
フェンが周囲を見渡しながら言った
少し言葉がつまったのは違う気配−不気味さが漂っていたからだった
「あれだけ厳重に守られた工場の次は全く人のいない洞窟か」
「理由はどうあれ何かあるんでしょうねぇ・・・
それよりもこの岩なんだと思います?そこらじゅうに同じ形の岩があるみたいですが」
足元にあった岩らしきものしゃがみこんで見てみる
確かに周囲にもほとんど同じ形をしたものが転がっている
少し後ろ(つまりはエレベーター側)ではガルフが周囲の様子を見ていた
「何かのトラップじゃなきゃいいんだけどなー」
「トラップじゃなさそうですが・・・」
と、触れようとした瞬間
ガブッ
「え?」
「とりあえず気をつけ・・・」
「あいたたたたたた!!!」
岩と思っていたものがフェンの頭に噛みついた
フェンはかなり不意をつかれたのか、驚き八割で叫んだ
ピンと立った尻尾が証拠だ
「・・・どうしたー、岩に小指でもぶつけたかー?w」
「なに笑いながらボサッと見てるんですか!!!
助けてくださいよ!!!!」
今度は怒りながらガルフに叫ぶ
近寄って様子を見るガルフだったが、表情はにこやかだった
「うん、いいペットじゃないかーw」
「どこがペットに見えますか?え?これだけ本気で噛む犬も少ないと思いますよ?」
次は笑いながらガルフに言う
しかし明らかに怒っている
噛まれている部分とは別の場所に見える血管からも血が吹き出ている
噛まれている部分からも着実に流血している
「あ、あんまり血をのぼらせると余計に血が出るぞ?」
「あのですね、そういうことじゃなくてですね?
わかりますよね?これ。
本気で噛まれているんですよ、本当に血が出てますよ?
だからさっさとどうにかしてくださいね?」
「んー・・・まぁ仕方ないなぁ・・・」
「何を嫌そうにしてるんですかあなたは!」
「とにかくそうなったら兄ちゃんに任せときなさい!ひっそり手に入れた呪文書で・・・」
「ちょーっと待った!魔法の名前は?」
「えーと少し待ってろー・・・・我、天光に・・」
と、ガルフは呪文書を読むふりをしながら詠唱を始めた
フェンがそれに気付いたころは既に詠唱は全て終わっていて・・・
「ちょっと!近・・・!!」
「サンダーブレード!」
ガルフが手をかざすと電撃が円を描きながら広がった
フェンに噛みついていた岩のようなモンスターも含め、同じ形をしたモンスターもダメージを受けた
一瞬だけ動くと口の部分を上に向けて動かなくなってしまった
当然フェンの頭にいたモンスターも地面に落ちたが、フェンには全くダメージはなかった
「ま、こういう名前の魔法だ♪」
「まー結果オーライでしたからいいですけど・・・・
 というかその魔法は前から知っていたでしょう・・・・」
力が抜けたフェンは腕をだらんとたらしたまま苦笑いを浮かべていた
血は出っ放しだった
「兄さん?僕は放置ですか?」
「さぁ先を急ぐぞw」
フェンの問いに対しても完全にスルー
(また悪だくみが始まったようで・・・・)
「はは・・・死ぬかも・・・・」
足取りが軽いガルフとは対照的にフェンは足を引きずるように後を着いて行った


To be continued........


あとがき
はい、いつ以来でしょうか?
ちゃんと生きてましたよ、はい、半ば死んでましたがw
さて、だんだんフェンがかわいそうになってきましたね^^;
ですがガルフの悪だくみはまだ続くようです。頑張れ・・・!

ファンタジアのサンダーブレードは確か画面一個分でしたよね?
それを想像してましたから、違ってたらすいませんw
あとあの場所の入り口って本当はどうなってるんでしょうね?
そこらへんは完全に想像で書かせてもらってます〜
ではでは。

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久しぶりにビースト兄弟がおがめて大変しあわせですv
しかしこの兄弟は本当に仲がいいなあ(?)と思ったり。
フラムベルクももうすぐ登場のようでわくわくです。
サンダーブレード…TOPのサンダーブレードはどんな感じだったかな(汗)
やばい、時代の波が…っ
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