- テイルズ -




BOOK
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著:紅サマ

「へぇ〜・・・賑やかですねぇ・・・」
フェンが意外そうに入り口から町を見渡す。
石の門でできた入り口は大通りに直接繋がっていて
そこから色々な店や民家を伺うことができる。
三人はまずはレンズを換金。
換金したお金の一部で小さな瓶の飲み物を三人分購入。
買った飲み物を飲みながらまずは街を見てまわる事にした。
少年は家の準備をするからと、家がどこにあるかだけ二人に教えると先に戻っていった。

「というわけで、街を歩いているわけですが」
さっきのジュースを片手に、フェンがかなり赤面しながら言った。
「ああ、フェンリルにはないものばかりだな〜♪」
「ええ。そうなんですが」
一方でガルフはかなりご機嫌。
二人が歩いている周囲では住人がクスクスと笑っている。
二人の姿を見てから笑っていることはそこにいる人ならすぐわかる。
「なんか笑われてる感じがするが・・・フェンはどう思う?
 やっぱ耳と尻尾のせいか?」
「ええ、そうかもしれませんが・・・
 その前に大きな間違いがあるかと・・・」
フェンは赤面しながら相当怒っている様子。
頭には十字マークが4個から5個へとだんだん増えていく。
「にしてもこの飲み物おいしいな〜♪」
「そうですね・・・その前に・・・」
「ん?その前に?」
「どうして僕が肩車されてるんですか!!?」
「別にいいじゃないかv兄弟水入らずw」
「何が"水入らず"ですか!!大体表現間違ってます!」
フェンがポカポカガルフの頭を叩いて騒ぐ。
「兄弟かな・・・仲が良いね〜」
騒げば騒ぐほど周囲の人から見れば逆に仲がよさそうに見える。
「う・・・;」
声が耳に入るたびにフェンはしゅんとして、抵抗を止める。
「ほーら、わたがし買ったぞ〜v」
いつの間にかどこで売ってたかもわからないわたがしを手渡されるフェン。
「わー!僕わたがし大好きー!(ヤケ)」
フェンも人前でいつものように思いっきり抵抗するわけにもいかないので
とりあえず周囲の空気に従った。
・・・・というか壊れた。
しかし時間が経つにつれて怒りも増え、目は笑うことができないままだった。
「ねー、あのお兄ちゃん笑いながら怒ってるよ?」
途中、そんな声が耳に入ったがそんなことはどうでもいいほどの
恥ずかしさと怒りが表面張力の状態で保たれている。
ガルフは知っていないのか知っていない振りをしているのか、お構いなしに街を見て回る。

―三十分後

「よーし、結構時間も潰れたし、街も見て回れたからちょうどいいだろv」
少年に渡された家の目の前で一度足を止めるとフェンに尋ねる」
「そうですねーw」
フェンは笑みを浮かべたまま答えた。
ガルフがフェンを降ろし、一度しゃがむと
「ガルフ兄さんー?もう少ししゃがんだままでいてくださいねー?」
フェンが片手にわたがし、片手にジュースの瓶を持ったまま笑顔で言う。
「ん?どうした〜?」
ガルフがフェンの方を笑顔で見上げる。


「本当にしんらいしてもいい人たちだよ!ぼくのことも助けてくれたし
 レンズも取ってきてくれたし!」
家の中では少年が必死に母親を説得していた。
なんとか片付いた家をもう一度確認しながら母親が言う。
「でも、初対面の方なんでしょう?それに旅人なら逆に迷惑じゃ・・・」
「お兄ちゃんたちは大丈夫って言ってたよ。家の場所も教えたし」
「もう家の場所も教えたの?」
「うん。だっていのちのおんじんだよ?お礼はしないといけないでしょ」
「そうね・・・もし本当なら精一杯のお礼をいなくちゃいけないのは確かだけど・・・」
母親がためらっている横で、少年が自分の身のまわりの整頓も始める。

ガシャーンッ!!

「あ!きっとお兄ちゃんたちだよ!」
外の物音を聞いて少年が真っ先に反応する。
母親は瓶が割れたような物音に少し訝しげな表情を浮かべる。
少年は入り口ののぞき窓を背伸びと踏み台を使いながらのぞく。
「やっぱりお兄ちゃんたちだ!」
そう言って嬉しそうにドアを開けた。
「あ、もういいんですか?」
外で待っていたフェンが少年に尋ねた。
横ではガルフが頭から血を流しながら倒れている。
頭には半分割れた瓶とわたがしの棒だったものが刺さっている。
「えーと・・・そっちのお兄ちゃんはだいじょうぶなの?」
「ええ、このバカ兄貴はこんなことでは死にませんから。ほっといてください♪」
一般人から見ればどう見ても重症のガルフを横目にフェンは笑顔で答える。
家に入ると玄関で今まさに外に出ようとしていた母親に挨拶をする。
「急にすいません。迷惑ではありませんでしたか」
「あ、いえ、こちらこそ息子を助けてもらったようで」
「いえいえ、そのことについてはお気になさらないでください。
 当然のことをしたまでですから」
「ですが、せめてお礼だけでもさせてもらえないでしょうか?」
「・・・・それでは、お言葉に甘えさせてもらいます」
丁寧な受け答えでフェンが一礼する。
母親は少し呆気に取られながら、自分の旅人に対するイメージを見直そうと考えていた。
玄関のドアを閉めようとすると、ようやく視界に入ったガルフを見て心底驚いた。
ぱっと見では人が死んでるようにも見える。
「・・・・いつつつ・・・・ん、瓶が刺さってるじゃないか・・・・」
出血多量の頭をボリボリかきながらガルフが起き上がる。
「あ・・・あの・・・薬・・・」
「いや・・・こう見えても私は法術が使えるから心配しなくてもいい」
瓶が刺さっている部分を手で押さえながらガルフも家の中に入っていった。
(旅人って・・・意外にタフなのね・・・・)
母親は呆気に取られながら、違う意味での旅人のイメージを考え直そうとした。


「では、今は仲間を探す旅、ということでしょうか?」
「大体はそんなところです」
「その途中に偶然あの森に立ち寄って、あの子に会ったということだ」
「では、あの森にいたのも旅の道中で?」
「ええ、そうです」
リビングに大きなソファーが二つ、向かい合って置いてある。
片方には少年と母親、片方にはフェンとガルフが座っている。
ソファーを挟む格好で机が置いてあって、机には三つのお茶と一つのジュースが置かれている。
ジュースは半分だけ飲んであり、当の少年は3人の近くで積み木遊びをしている。
今は向こう側からの質問に対してフェンとガルフが答えているところだ。
「ですが最近はモンスターも増えていますから当てのない旅をするのは大変では?」
「確かに大変だ。だがこちらもその仲間に用事がある」
「それが命をかけるほどの?」
母親の方はつっかかるように質問をしてくる
「でもお兄ちゃん強いんだよ?レンズもいっぱい取ってきてくれたよ」
少年が母親に今までレンズが入っていた袋を渡す。
袋の中にはレンズの代わりに換金されたお金が入っていた。
「こんな大金・・・!いったいどうやって!?」
「だからお兄ちゃんたちがレンズを取ってきてくれたから、それをガルドに変えたの」
「・・・いったいあなたたちは・・・?」
ますます母親が疑うための種が増える。
「あの、むかし僕達は傭兵やってたので、それでですよ!ね、ガルフ兄さん?」
「ん?ああ、そうだ」
「傭兵ならもっと国や交通に知恵があるはずでは?」
「えーと・・・それはー・・・;」
流すつもりの言葉が逆に墓穴を掘ってしまい、言葉に詰まるフェン。
隣でガルフが
「もう本当のこと言うか?」
とフェンに小声で尋ねる。
「そんなことしたら何か変なこと起こるかもしれないじゃないですか!」
フェンも小声で答える。
「大体そんな人の目に付くような仮装を傭兵がするとはとても思えません」
母親がもう一言ダメ出し。
どうやら耳と尻尾のことを言っているらしい。
フェンがどうしようか試行錯誤している隣でガルフはのん気に耳と尻尾を触りながら
「ん?これは本物だぞ?」
と答える。
「何言ってるんですかあなたは!!余計疑われるじゃないですか!!」
フェンがまた小声でガルフに言う。
「どうせばれる事だろう?」
フェンの肩にポンと手を置きながらガルフが笑顔でそう答えた。
「てか、いい加減に頭から瓶と棒をとってください」
半ば呆れながらフェンがガルフにそう答えた。
ガルフは頭に刺さっていることを思い出すと(忘れていた?)一度瓶を触って笑顔になる。
「な、フェンが刺したんじゃないかw」
「笑うところでもないと思いますが」
「あの・・・よろしいでしょうか?」
「え、はい、大丈夫ですよ」
母親の声に驚くように反応するフェン。
「とりあえず名前からですね、僕はフェン=ビースト。
 で、こっちが兄のガルフ=ビーストです」
突然の自己紹介に逆に母親は不思議そうにする。
「あと耳と尻尾は本物です。一応モンスターじゃありませんからね?」
にこっと笑いながら付け加えるフェン。
隣でガルフは頭に刺さった瓶と棒を抜こうと必死にもがいている。
少年の母親は一度イスから腰を上げる。
フェンの横に立つと耳をつまんでみる。
「本物・・・・?」
「ええ、そうです・・け・・・ど・・・っいたたた;」
訝しげに一度耳を引っ張り上げる。
耳は敏感なのか、強めに引っ張ってもないのに痛がるフェン。
それを見て逆に真実味を帯びたためか、もう一度引っ張ってみる。
今度はさっきより強めに引っ張ってみる。
「痛たたた!!あの・・・ッ!本当に・・・・ッ!本物ですから・・・ッッ!!」
声にならない悲鳴を上げながらフェンが母親を制止する。
フェンがそのために両手をかざすと、母親は我に返った。
「す、すいません!何しろそんな耳をしている人には会ったことがなかったので・・・」
「はははは・・・・それが普通ですよ、きっと;」
「ついでに尻尾もな」
いつの間にか瓶とわたがしの棒を頭から抜いたガルフがフェンの尻尾をギュッと握りながら言った。
「い゛ッ!?」
ビクッと体を跳ねさせながら、涙目で痛がるフェン。
涙目のまま目つきが鋭くなったかと思うと、すごい勢いでガルフのあごもとにアッパー。
ガルフはそのままソファーの後ろに吹っ飛ばされるとノックダウン。
フロアに大の字で倒れたガルフの顔は飽くまで満足げだった。
「いたたた・・・・こんのバカ兄貴!いきなり何するんですか!」
「フフ・・・強くなったなフェン・・・・(ガクッ」
「・・・・・。
 さぁ、バカは放っておいて、本題ですが」
「え・・・ええ・・・・」
呆気にとられていた母親が更に呆然とさせられる。
「僕たちは簡単に言えば"異世界の人間"です。
 あそこに寝転がっているガルフ兄さんの魔法のせいで
 この世界に迷い込んでしまったみたいなんです。
 信じ難い話ですけどね;」
苦笑いを浮かべながらフェンが続ける。
「戻るためにはもう二人の仲間も集めないといけないので・・・・」
「そのお仲間さんもこの世界に?」
「はい。
 ですが地理については全く詳しくないので・・・・・」
「そういうことでしたら地図の一つや二つぐらいで良ければお譲りしますよ」
今度は母親が笑顔になり、フェンにそう言った。
「それと私はイセル、それとその子が息子のケイブです。
 世界地図なら余っているのがいくつかありますので、それを使ってください」
「よろしいのですか?世界地図というくらいのものですから、それなりに高価なものでは」
「いえ、そんなことはありません。
 この世界では旅人が珍しいわけではありませんから、
 地図ぐらいならすぐに手に入りますよ。
 それにこの地図も主がいないとかわいそうでしょう」
イセルがにこっと笑う。
その笑顔を見ていたフェンは不思議な違和感を感じた。
「あ、少し待っててください、いま持ってきますから」
そう言ってもう一度イスから腰を上げるとパタパタと小走りで外へと出て行った。
フェンは「はい」と一度会釈を交えながら答えると、
机においてあったお茶を一口飲んだ。
コップを机に置くとソファーの後ろに身を乗り出す。
耳を一度ピクッと動かすと、ガルフはそのままの状態で話し始めた。
「・・・兄さん、起きてください」
「ん?終わったか?」
「なんとか話はつきましたよ」
「じゃあ後はフラムベルクとオリジンを探すだけだなv」
「ええ、そうなんですが・・・・
 ちょっと訳ありかもしれませんよ」
「・・・・気になるのか?」
「別に気になるわけではありませんけど・・・・」
部屋の周囲には写真の入ってない写真立て、大きな狩用の剣が飾られている。
どれも新品というわけではなく、何回か使われたもの。
「少なくて・・・・3人、でしょうか」
ぼそっとフェンが言った。
「多くて4人」
「にしては矛盾が多すぎますね・・・・」
「つまりは"ワケあり"だな」
フェンの目の前に出されたお茶の入ったコップ。
向こう側にあるものは随分と擦り傷が目立つが、こっちにあるものは比較的新品に近い。
このまま売りに出せば、その後その店の品入れに並ぶこともできそうなきれいなコップだった。
家の大黒柱にはいくらか削ったような切り傷がつけられており
同じ方向に付けられた傷跡は新しければ新しいほど上のほうにある。
一つは1m程度の場所に、一つはフェンの頭ぐらいの高さで止まっていた。
「・・・・4人、でしょうね」
周囲を一通り見終わると、フェンが言った。
「そうだな・・・一人は3年前ぐらいに・・・・」
ガルフも両腕を組みながら周囲を見渡す。
結論に達した頃、ちょうどイセルが戻ってきていた。
気付くと、少し悲しそうな表情と、嘲笑を混ぜたような笑顔がガルフの目に入った。
「ええ・・・ちょうどそれぐらいです・・・・夫と息子がここを出たのは」
「息子・・・・・ではあの子は次男ですか」
「ええ、長男の子は夫と一緒にそこの扉からいつものように出て行きました。
 いつもと変わらない晴れた良い日でした。
 私は門出と思い、笑顔であの子の背中を見ていました・・・・」
地図を机に置くと、元のイスへ腰を降ろした。
「思えば私は馬鹿でしたね・・・・・
 夫は旅が好きでした。昔は城の門兵もやっていて、それなりに戦術の知識はありました。
 それが小さな思い込みであったことも気付かず、止めることができなかった私にも責任はあります。
 だけど・・・・どこかでわかっていながら私は止めなかったんです」

「ねー、青い髪のお兄ちゃん遊ぼ〜」
「え?」
突然のケイブの言葉。
フェンは僅かに反応を鈍らせながらそう答えるのが精一杯だった。
「兄さん」
「いい、今は何も考えなくても。ご指名なんだ、遊んでやればいいさv」
フェンの言葉を遮るようにガルフが笑顔で答えた。
小さく頷くと、フェンは笑顔で奥の部屋へと連れられていった。
「・・・・・ガルフさん」
「ん?」
「あなたなら・・・・止めることができたでしょうか?」
机の上に乗せられた地図が、小さく揺れた。


To be continued........


あとがき
かなり飛ばしていたので1、2話では挨拶が遅れましたが・・・
初めましてのかたは初めまして、紅と申します。
って、これはBBSでやるべきですね、
何をそんなにテンパっている(死語)のでしょうか、僕は;
本編の方もすごく気になりますねw
今回はガルフさんも出番が増えてくれて嬉しい限りですv

本文の方ですが、少し長くなってしまってますので、のんびりと見ていただければ幸いです。
あと注意点として、瓶やわたがしは頭に刺すものではありませんので、
皆さんは兄弟喧嘩なんかでは使わないようにしてくださいね〜
それと、物語中に出てくる家族は想像上のものです。
ゲーム中には存在しないはずです。こういう細かい設定が結構好きなのですw(迷惑)
ではでは。

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身長約180と190(俺設定)の二人が肩車してたら
ものすごく目立ちますね(笑)
うちも耳と尻尾を引っ張ってみたいですw
さて、シリアスな雰囲気ですが…この先どうなるんでしょうか。
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