- テイルズ -




RAGNAROK - 1 -
------------------------------------------------------------


オリジンは空を見ていた。
すでに日は落ち、黒の中に点々と光が見える。

トレントの森では星がよく見えた。
この森の周りにはエルフの集落と忍者の里くらいしか人工物はなく、
どちらも自然の光を活用し、近頃ぽつぽつと現れた「電気」を
あまり使用していないからだ。

あれの明かりは強すぎる。星の光もかき消されて見えやしない。

実際オリジンは本物を見たことはなったのだが、
それは彼の不思議な能力がすでに教えてくれていた。

人間はどうしてあんなに愚かなのだ。
何故こんなに心地良い森を捨てた。

・・・まあ、共存なんてこちらからも願い下げだが。

柔らかな風が吹きぬけ木々がざわざわと音を立てた。

ああ、心地良い。

オリジンは幸せを感じながらゆっくりと目を閉じた。

・・・が、すぐに目を開いた。それも大きく。

見てしまった。
きっともうすぐ起こるであろう『未来』を。

招かざる訪問者。


オリジンは大きく顔をゆがめた。


+++


同じ頃、同じ森に六人の男たちがいた。
皆同じ迷彩服を着て、懐中電灯と地図を持っていた。
一列に並び、先頭には隊長らしき人物が地図の変わりに
資料らしき紙を持って森の奥へとずんずん進む。

彼らが歩いているのはあまり綺麗な道ではなかった。
獣道ともいいがたい。彼らが始めての通行者かもしれない。
草は腰まで達し、彼らが歩くごとにすれて音が鳴った。
先ほどのオリジンがいた森と同じ森だとは思えない、
どんよりとした、うす気味悪い風景。
時折気味の悪い鳥の声が聞こえて隊員たちは飛び上がり、
もう何度も帰りたいと思った。

だが帰ることはできない。
成果もなしにのこのこ帰れば減給だろうし、
下手すれば明日から職を探してさ迷い歩かなくてはいけなくなる。
第一、この先頭を歩く上司が許してくれるとは思えなかった。

隊長はこの状況にイラついていた。

まず、暗くて見えにくい。
次に、虫がうざい。
そして、見つからない。

ふと、もっていた資料に目をやった。

『精霊オリジンについての報告』

精霊?本当にいるのかそんなもの。
噂には聞く。よく吟遊詩人が歌っているものだ。
だがそれだけ。実物は見たことがない。
エルフは精霊と言われているが実際どうなのか解ったもんじゃない。

本当にいるのならこの後精霊とやらに会えるのだろう。
だがいなかったら?一体何をしているんだ俺は。

なんであの人はこんな曖昧なものに頼るんだ?

自分をこんな所へ送り出した上司のことを思い出してさらにイラついた。
彼は上司とはあまりうまくいっていなかった。

「隊長!」
「なんだ」
いきなり自分のすぐ後ろを歩いていた若い隊員が叫んだ。
「前方に光が見えます!」
「何?」
見ると、木々に隠れて奥がほんのりと明るく光っていた。
『電気』のような光ではなく、まるで蛍のような・・・。
一つ一つの小さな光の塊がふよふよと浮いて
周りを照らし出しているようだ。

隊長は慌てて邪魔な葉を踏みつけながら進んだ。
そしてその光の所に着く前に、確信した。

精霊はそこにいる、と。


木々が開けた。
小さな広場にはたくさんの光の塊。
そしてひとつの古そうな石盤。

これだ。

『精霊オリジンについての報告』に書いてあった
オリジンが媒介とする漆黒の石盤。
すぐに石盤に駆け寄り1Mほどはなれたところで足を止め観察する。

ブライマル・エルヴン・ロアーか?・・・それとも・・

隊長は石盤を見ながらふと、違和感を感じた。
石盤を見る前にはなかったものが存在している。
ゆっくりと石盤の上を見た。

そこには―――・・・

「ようやく会えたなオリジン」
「・・・誰だ貴様は」

そこには金髪を風に揺らしながら石盤の上に座るオリジンがいた。

これが精霊。
たしかにものすごい威圧感だ。
だが、こんなことで怯んでいたら目的を達成することはできない。
隊長は一歩前に出て、オリジンの顔を見て言った。
「私はトールの者だ。お前に話があってここまで来た」
「トールか。わざわざご苦労なことだな。
 しかし私はお前と話す事など一つもない。
 即刻この森から出て行け」
「手厳しいな」
「私は人間が嫌いだ。その中でもトールは一番だ」
隊長は苦笑した。
まあ、確かにそうかもしれない。

この世界は3つの国に分かれていた。
トール、オーディーン、フェンリル。
オーディーンは熱帯林に囲まれた灼熱の国。
(今では戦争により熱帯林も徐々に砂漠と化してしまっているが)
フェンリルは年中雪が降り積もる極寒の国。
そしてトールは、最も技術が進んでおり、機械に囲まれた人口島に国がある。

精霊が機械好きなわけがない。

「少しでいい。聞いてくれ。
 我が国はお前の力を必要としている。共に我が国のち―」
「却下だ」
台詞を言う前に返されてしまった。よほど嫌われているようだ。
だが隊長はかまわず話を続けた。
「ここにルーンリングがある。私たちは『契約の指輪』と呼んでいるのだが、
 これを使用すればお前はその石盤から離れることができる。
 どうか私達の力になってくれないか?」
「却下だと言っているだろう。
 お前の耳はちゃんと作動しているのか?」

ぐ・・・。

隊長は思わず飛び掛りそうになってしまったが
なんとかそれを抑えた。
なんて生意気な精霊。本当に持って帰るのか?コレ。

「大体、力になれと言っているがつまりは服従しろという事だろう。
 お前は誰にものを言っているのかちゃんと理解しているか?」

解っているさ。
根源の精霊にして精霊の王、オリジン。
どんなに危険なことをしているのか十分に解っている。
話で解決できる何てもとから思っていない。

だから。


バシュウン

オリジンの顔のすぐ横をレーザーが通り抜けた。

いつの間にかオリジンの後ろにまわった隊員がレーザーガンを発砲したのだ。
他の隊員もオリジンを取り囲んで銃を向けている。

オリジンは、別段驚くわけでもなく
ちらりと隊員を横目で見ただけだった。

「武力行使か。人間は本当にやることが単純だな」
顔は無表情だったが、声には一段と冷たさを増していた。

そして、オリジンの金髪が重力に逆らってふわりと浮いた。

刹那。

ゴオオォォォ!!
オリジンから突風が放たれた。
同時にバチッと電気のような音が聞こえた。

遅れて激痛が体全体を走った。

「・・・っ!!」

『カラップス』だ。

隊長は『精霊オリジンについての報告』に書かれていたことを思い出した。

『オリジンは無属性呪文『カラップス』を得意とする。
 閃光を放出し、触れると感電に似た痛みが走る。
 広範囲に効果が及ぶので十分注意すること』

ああ、全然注意してないな・・・。
隊長は地面に転がったまま苦笑した。
次に攻撃されたら終わりだ。

死を、覚悟した。

・・・・・

・・・・・・・

その時はいつまでたっても訪れなかった。

「さっさと国へ帰れ。もう二度とこの森に足を踏み入れるな」

オリジンが遠のいていくのを感じた。
見逃してくれるのか。
それとも精霊は殺しをしないのか。

隊長は笑った。

どちらにしろ、その甘さが命取りだ。人間をなめてはいけない。
震える手で自分の腰にあったレーザーガンを抜き取ると
オリジンの背中に照準を合わせた。


森に銃声が響いた。


To be continued........

------------------------------------------------------------
かれこれラグナロク3回も書き直してますよ(泣)
僕が小説を書くときのコンセプトは『気楽』なので
難しい言葉はあまり使わないようにしてるんですが
以前より明らかに気楽じゃなくなってる感は否めませんね;
シンフォニアが発売して僕の設定は完璧に否定されてしまった
訳ですが(泣)どうぞ最後までおつきあいください(_ _)
------------------------------------------------------------
2004.7.17