RAGNAROK - 6 -
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フェンが止めるまもなく、彼は壁に空いた穴から身を投げた。
ここは4階・・・助かる可能性は・・・低い。
ボロボロになったトールの会議室に重い沈黙が流れた。
その時。
「キャウッ!」
下で動物の鳴き声のようなものが聞こえた。
「?何だ?」
オリジンが壁の穴に近づく。
逆にフェンは一歩ずつ後ずさっていた。・・・顔面蒼白で。
「ロディン・・・どうして、ショコラが、いるんですか!?」
何故か片言でしゃべるフェン。
訊かれたロディンは言いにくそうにポリポリと頬をかいて言った。
「えっ、と〜・・・あー・・・。
そういえば、一度物資補給に帰宅すると言っていました」
「物資補給ですって!?なんで腐っても総司令官なあいつが
わざわざ来るんですか!!しかもここトールですよ!トール!!
敵国じゃないですか!!」
後ずさっていたフェンが、扉のすぐ横の壁にぶつかった。
「いや、私に言われても・・・」
その時、今度は下から動物の声ではなく、
誰かが何かを叫んでいる声が聞こえた。
「あ、ああああとの事は、頼みます!!!」
ますます青白くなったフェンは会議室からもの凄いスピードで逃げていった。
「・・・何だ?」
穴の前まできたオリジンがフェンのいた所・・・
つまりは、会議室の出口を呆然と眺めていた。
「・・・おい」
「うわ!?」
突然後ろから声をかけられたオリジンは驚いて体制を崩した。
いつもならそんなミスはしないのだが
後ろから声をかけられるなんて思いもしなかったのだ。
なぜならオリジンの後ろは、先ほど男が飛び降りた穴があったのだから。
その穴から声をかけてきた人物は、大きなネコ?に乗っていた。
どうやらそのネコ?は空が飛べるらしく、
その人物と、先ほど穴から落ちた男を背に乗せていた。
さっきの鳴き声は男をキャッチした時に発せられたものだったのだ。
「おい、お前か〜?こいつ落としたの。
ダメじゃないか。死んじまうぞ?」
声をかけてきた人物は男をぽいっと穴に放り投げた。
男は気絶しているようで、オリジンの足元に転がった。
「ん?」
人物は何かを見つけるとネコ?の背から飛び降りて
オリジンの後ろへツカツカ歩いていった。
(ん・・・?)
その時オリジンは、その人物の頭部に注目した。
ミミだ。・・・猫ミミだ・・・。
尻尾も生えている。
これはまるで・・・
「よ!ロディン。元気にしてたか?」
「はい。おかげさまで・・・」
ロディンがやや疲れ気味に答えた。
「それにしてもこの国は凄いな〜!
人は落ちてくるし、この部屋は氷張りじゃないか」
「あ、ははははは・・・」
ロディンがなんとも言えない笑いをした。
「ところで、フェンがフェンリルに居なかったんだが
ここにきてないか?」
ギクッ
「フェンなら・・・」
ロディンが固まってしまったので
オリジンが代わりに答えようとしたが、
ロディンが人差し指を口に当てて合図した。
「フェンビースト様なら随分前にお帰りになられましたよ。
行き違いになったようですね」
「そうなのか!?じゃあ早くフェンリルに戻らなくちゃな。
・・・ん?お前らどうしたんだ?」
彼はロディンの後ろで山積みになっている(扱いひでぇ)
フェンリル兵を発見した。
「彼らはちょっとした事故に巻き込まれまして・・・」
「そうか・・・。直してやりたいんだが
あいにくTPがすっからかんなんだ。
よし、彼らは私がフェンリルに運んでいこう」
「助かります。ガルフ様」
ガルフと呼ばれた男は、山積みになったフェンリル兵30名を
ひょいと持ち上げて肩に担ぐと、穴の方へ戻ってきた。
「じゃ、先に帰るな。ロディンも早く帰ってこいよ〜」
「おい」
ネコ?に飛び移ろうとするガルフを、オリジンが止めた。
「お前は、誰だ?」
「ん?私か?私はフェンリルのガルフビースト。
で、この子がオオカミのショコラだ。よろしくな♪」
いきなり訊ねられたにもかかわらず、
屈託のない笑顔でガルフビーストは答えた。
「キャウゥ」
ショコラと呼ばれたネコ・・・ではなく、オオカミも
嬉しそうに鳴く。
「あ、ああ・・・」
「お前も誰だか知らんが人を落としちゃ駄目だぞ。じゃな〜☆」
挨拶を済ませると、ガルフはショコラに飛び乗り
フェンリルの方へと飛んでいった。
「・・・ふぅ、なんとか誤魔化せたみたいですね」
ロディンが安堵のため息をついた。
「あいつは、お前達の何なんだ?フェンリルの者のようだが」
ロディンは一瞬、敵国の者であるオリジンと会話することをためらったが
それでもゆっくりと、目線を床に向けて話し始めた。
「ガルフ様は、我がフェンリル国の総司令官であり、
フェンビースト様の兄にあたる人です」
「フェンの兄?」
たしかにあの二人には共通の、獣の耳と尻尾があった。
刺すような金色の瞳と、屈託のない笑顔もよく似ている。
しかし当のフェンは、ガルフが来る前に逃げていったはず。
オリジンが更なる説明を促す。
「ガルフ様は・・・その、少々愛情が過ぎるというか・・・
つまりその・・・・・・」
ロディンがいいにくそうに目線をきょろきょろさせる。
先ほどまで勇敢で生真面目だった青年が、とても頼りなく見えた。
ロディンは一呼吸して覚悟を決めた。
「・・・俗に言うブラザーコンプレックスなんです」
「はあ?」
ブラザーコンプレックス。兄弟に強い執着があること。
「それで、その・・・過度な愛情にフェンビースト様は
嫌気がさしまして(というか私でもあんなの耐えられない)
ガルフ様が現れる前にいつも逃げてしまうんです」
「・・・・・・」
オリジンは何といっていいのかわからなかった。
呆れるべきか、フェンに同情するべきか、それともこの哀れな部下にか。
とりあえず、部屋に帰ることにした。
そのことをロディンに伝えると、ロディンも国に帰るらしい。
先ほど逃げていったフェンを探しに部屋を出て行った。
一人、ボロボロの部屋に残ったオリジンは(へんな男が床に転がっているが)
窓や、ガルフが帰っていった穴からくる夕日の光が、
部屋を満たしていく様子をしばらく見ていた。
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
誰かが階段を上ってくる音が聞こえる。
オリジンは、それが誰か解っていた。それ以外にありえないとまで思った。
「あ〜あ、ひどい有様だねえ」
階段を上ってきた男はボロボロになった部屋を見て、そういった。
少し、笑いながら。
「・・・お前だな?リウス・・・。こいつを仕掛けたのは」
「ん。何のことかな?」
「ふざけるな!!」
バンッ!!という大きな破壊音と、強風、そして光が部屋を包んだ。
オリジンが強大な閃光を放出したのだ。
それでもリウスは怯えることもなく、むしろ笑った。
「まあまあ、落ち着かないかオリジン。
大体、僕がやったなんて証拠ないだろう?」
「・・・あれほど会議室で騒ぎがありながら、最高責任者の
お前が現れなかった・・・。それが証拠だ」
リウスはふうっとため息をついて風で乱れた髪を直した。
「間違っちゃいけないよ、オリジン。
僕は『最高権力者』であって『最高責任者』じゃない。
権力のあるものが必ずしも責任をとるわけではないし、
そもそもこの国の表向きの権力者は僕じゃない」
「・・・何?」
「トール=ガルガ大統領ってのがいてね。
まあ、今回のことも僕より彼の責任になるんじゃないかなあ」
「・・・卑怯な」
「何を言ってるんだい?」
リウスがにやりと笑う。寒気のするような冷たい笑顔だ。
「君が昨日、オズの部屋にいかなければ、こんなことにはならなかったよ」
ドクンッ。
そういえば、警備隊長はフェンを賊といって襲ってきた。
それはフェンとフラムベルクがオリジンに会いに敵国・・・
しかも、関係者以外立ち入り禁止のオズの部屋に進入したからだ。
「警備隊長はその責任をとったんだ」
「この男は、・・・死のうとしたんだぞ!?」
握っていた手に力が入る。
リウスは静かに目を閉じた。
そして、言った。
「それが彼の責任の取り方なら、いいんじゃないかい?」
「・・・貴様ぁ!!」
オリジンは何もない空間から槍をとりだすと、リウスに襲い掛かった。
しかし、矛先が喉に刺さる寸前、その攻撃はとまった。
いや、正確にはとめられたのだ。
オリジンの体には植物のツタが巻きついていた。
「魔術・・・・・・・ハーフエルフ・・・か」
「そう呼ばれるのはあまり好きじゃないんだ」
オリジンの槍が消えると同時に、
体に巻きついたツタがしゅるしゅると床に戻っていった。
「まあ、オリジン。今回のことは胆にめんじておいてね。
勝手なコトをするとどうなるのか、って」
「・・・・・・・・・」
「じゃあね」
リウスはそのまま、階段を上っていった。
床に転がった警備隊長に、一瞥もくれずに。
もう日は落ちていた。
To be continued........
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ガルフは書いてて一番楽しいキャラです♪
前作には一瞬しかでなかった、ガルフの乗り物
ショコラも登場させてみたり。
っていうか、エレベーターがあるのに階段を使うリウスは
健康的だなあ(笑)
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2005.4.11 |