- テイルズ -




RAGNAROK - 5 -
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まだフェンリル兵がトールへ到着していない、夜明け前の朝
会議室には二人の男がいた。

「警備隊長」

「・・・はっ」

警備隊長と呼ばれた男は、もう一人の男が何か行動するたびに
びくっと体を震わせていた。
彼に恐怖しているのだ。

「昨日のこと、知ってるね」

「・・・はっ」

「敵国のトップの二人がこのトールに無断進入。
 明らかに違法行為だと思わないかい?」

「・・・・・・・はい」

「どう、責任を取ってくれるのかな。警備隊長?」

それはまるで、死の宣告でも言い渡されるかのようだった。


+++


「うわ〜!随分いい部屋で暮らしてますね〜。オリジン」

フェンはオリジンの部屋に入ると、好奇心満々で部屋をチェックし始めた。
オリジンは止める気も失せて、部屋の入り口で腕を組みながらその様子を見ている。

「大きな室内に、ソファーとテーブル、ドアは自動で・・・
 うわっ!広い浴室じゃないですか!羨ましいですねぇ〜」

「・・・本当にそう思うか?」

「思いますよ〜。窓も大きいし・・・うん、眺めも最高!」

フェンが窓開けて身を乗り出した。
外には一般人の住居区があり、さらにその奥には果てのない海が広がっている。
トールは海の上に作られた人工島なので、どの窓から見ても海が消える景色などないのだ。
カモメがフェンの目の前を通りすぎる。

「ただ、特殊な耳を持つ私にはちょっと機械の音がうるさいですけどね〜」

そういってフェンは自分のネコ耳(?)をひっぱる。
動物の聴覚は優れている。
このフェンの耳もその例には漏れていないらしい。

「いや、私もうるさくてかなわない」

オリジンは入り口からはなれて、ソファーに腰を下ろした。
フェンもオリジンの向かい側のソファーに座る。

「そういえば、オリジンはたしか森に住んでいたんですよね〜。
 もしかして、機械を見るの初めてですか?」

「いや、視たことはある」

「?・・・ああ、貴方の能力ですね」

「・・・調べたのか」

オリジンの能力・・・。それは、過去・未来を監視すること。
それはもちろん世界全体を視ることが可能であり、
オリジンの住むトレントの森周辺にはない機械を
オリジンが知っていてもなんら不思議な事ではなかった。

しかし、それでわかることはその姿、形、動きのみ。
機械がここまでうるさいことまでオリジンは知らなかった。

「でも、オリジンの能力って不思議ですよね〜。
 それっていったいどこまで作用するんですか?」

「どこまで?」

「えっ〜と、たとえばそれは意識的に見るのか、無意識なのか。とか」

「・・・無意識だな。望んで見ることもできるが・・・好きじゃない」

「それじゃあ見る内容は?」

「無意識のときはランダムだ。大体歴史上の大きな出来事を視る」

「え!それじゃあ、オリジンはこの戦争の結末を知っているんですか!?」

フェンが机から乗り出した。
フェンリルの者としても、戦争を反対してる者としても
気になるところだろう。

「いや、それはまだ視ていない」

「な〜んだ・・・」

フェンが残念そうな安堵したような表情で、またソファーに沈んだ。


―――・・・まて。

本当に私は視ていなかっただろうか。
この歴史に大きな爪痕を残すこの戦争のことを。

何か忘れてないだろうか?


「どうかしましたか?オリジン」

「いや、何でもない」

無意識に左手が頭をおさえていた。
その手をゆっくりとおろす。

「それならいいですけど・・・。
 あーそれにしても暑いですねぇ〜ここは」

フェンがパタパタと手で顔を仰いでいる。
うっすらと汗が出ていた。

「そうか?普通だと思うが」

「いーえ、暑いです!
 ここに来てからずっと我慢していたんですけどもぉ限界です!」

そういえば、フェンは部屋に入って何気なく窓を開けていたと思う。
あれは暑かったから開けていたのか。

オリジンはため息をつくと、立ち上がり部屋の奥へ行った。
帰ってきたときには、手にはアイスペールが握られていた。

それをフェンの前にコトンと置く。

「え?え?これ食べていいんですか?Vv」

暑さで垂れていた尻尾を勢いよくブンブン振り回して
キラキラと目を輝かせてオリジンを見た。

「まあ、お前は一応客だからな。粗茶のかわりだ」

「ありがとうございます〜Vv」

フェンは氷を1つ手に取って口の中に運んだ。

※乾いた氷を食べると張り付いて舌がさけるので注意しましょう☆

「ん〜vつめたい〜おいしぃ〜Vv」

「氷1つで大げさな・・・;」
(これでよく、部下はついてこれるな・・・)

あまりに幸せそうなフェンに呆れたオリジンは、
ふと、彼の部下達のことを考える。

今、上司が氷を頬張っている間にも、彼らは下で重苦しい会議を行っているのだろう。

「まったく、お前は何のためにここに来たんだ?氷を食べるためか?」

「ふぇ?」

笑顔のままフェンが振り向く。それを見てオリジンはため息を吐いた。

「・・・条約を結びに来たのはお前の部下達じゃないか。
 お前はここに来なくてもよかったはずだろう?」

「あー・・・はぃはぃ。
 まあ、へいひきいうほよーやくこーひょーひきはんえすけどね」
訳)正式にいうと条約交渉に来たんですけどね。

氷を入れたままでしゃべった為いまいち聞き取りにくい。
オリジンはとりあえず、フェンが口の中の氷を食べ終わるまで待つことにした。

コロコロコロ・・・

「・・・まだか」

コロコロコロ・・・

「・・・フェン」

「もーふぐえふっへ」

コロコロコロ・・・

「・・・フェン(怒)」

「もうふこひ・・・」

コロコ

「噛め(怒)」

「はひっ;」


::::: 間。:::::

「で、どうなんだ」

氷を食べ終わったフェンはとてももう1つ食べたそうだったが
オリジンが恐ろしい形相で睨んでいるので、
とても食べられそうにはなかった。

フェンは諦めて、なるべく氷から視線を逸らして(食べたくなるから)
オリジンの問いに答えた。

「・・・保険ですよ」

「保険?」

考えもつかない言葉が出る。

「ええ。オリジンと話したい事もあったんですけど・・・」

「何の保険だ?」

「・・・彼に対しての」

「彼?」

ドガァン!!!!!!!!!

突如、建物全体を大きな揺れと爆音が襲った。
窓の外を見ると黒い煙が立ち昇っている。それも、すぐ前で。

「下からだ!会議室か!?」

「ちっ、予測はしてましたがまさか本当に自分の城で攻撃してくるとはね!」

そういってフェンは机を飛び越えると部屋の出口へ向かった。
オリジンもそれに続く。

「どういうことだ!?」

「つまり、こういうことの保険だったんです!」

階段を飛び降り、会議室のある4階へ向かう。
会議室前に集まったトール兵を扉から離れさせて
フェンが体当たりで、機械ではない最後の木製の扉を突き破った。

「!」

会議室は滅茶苦茶に破壊されていた。
煙で視界が悪い。

「ロディン!いますか!!」

「フェンビースト様!」

フェンが呼ぶと、朝、廊下で会った青年が駆けつけて来た。

「これは一体どういうことですか?
 やはり、彼が!?」

「いえ、違います。会議室出口を警備していたものが突然
 爆弾を・・・危ない!」

フェンとロディンがいる方向へ矢が飛んで来た。
ロディンはそれを持っていた剣で一刀両断する。

その矢の飛んできた方向には、一人の男が立っていた。

「お前が昨日進入したという賊だな」

「・・・誰ですか、あなた」

「・・・・・・」

「たしか・・・警備の隊長だったと思うが」

フェンの質問に男は答えず、かわりにオリジンが答えた。
手にはいつの間にか、彼の武器である槍と金属製の棒が握られている。

「ああ、そうか。昨日私とフラムベルクが進入した事を
 阻止できなくて根に持ってるんですね」

フェンがポンっと手を打った。

「・・・何ですって?」

ロディンがその台詞を聞いてフェンを訝しんで見た。
フェンはそのことに気づかず話を続ける。

「私に危害を加えるならいいですけれど
 関係ない私の部下を巻き込むのはやめてほしいですね」

ピキキキィィ

フェンの周りの温度が急激に下がった。
床に氷が張り付き、側にいたロディンもフェンから離れる。

フェンの顔にはもう、いつもの笑顔は完全に消えていた。


「・・・これはフェンだけでも十分だな」

オリジンが持っていた槍と棒を消してそのまま観戦することにした。
ロディンは一瞬フェンに加勢するか迷ったが、
先ほどの爆弾に巻き込まれた部下達の救出に向かった。

「あなたでは私に勝てませんよ」

フェンが冷たく言い放つ。

「煩い!!俺には、もう、これしか道がないんだ!!」

男は怯えていたが、それでも退こうとしなかった。

(精神的に追い詰められていますね・・・。ヤツの仕業ですか)

フェンは右手に精神を集中させた。
少しずつ青白い光が手の中に集まってくる。

「行きますよ・・・アイストーネード!」

部屋全体を氷の嵐が襲った。
煙で灰色だった視界は白に変わり、そして消えた。

視界の開けた部屋は、爆弾でボロボロな上に
今の攻撃でほとんどの壁が氷付けになっている。

負傷した兵士達はロディンによって部屋の外に運ばれていた。

そして、あの男は・・・

「・・・!!」

フェンが男を見つけたとき、彼は爆弾で開いた壁の穴から身を投げていた。


To be continued........

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前作にはなかったオリジナルストーリー追加です。
ところで、あの氷入れるコップのことアイスペールって
言うんですね!初めて知りましたよ〜。
さて、次回はあの人の登場です。お楽しみに☆
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2004.12.17