RAGNAROK - 3 -
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オリジンは地下に向かって階段を下りていた。
だれかに監視されるか気になったが、後をついてくる気配はない。
どうやら行動はそれなりに自由のようだ。
途中でドアの前に立っていた警備員に「このエレベーターをお使いください」
と勧められたのだが、とても機械でできた箱に入る気は起きなかった。
地下まで降りると、明らかに今までの階とは違う雰囲気が漂っていた。
人気が少ないどころか、人ひとり見当たらない。
静かな分、機械の音がより耳についた。
(マザーコンピュータールームは・・・あの部屋か)
長くない廊下に、一つだけ部屋が見えた。
横開きの自動ドアだ。自室のドアよりもいくぶんか大きい。
オリジンがその扉の前に立つと、扉は難なく開いた。
(・・・関係者以外は立ち入り禁止じゃなかったのか?
警備が甘すぎる。まあ、私としては助かるが)
オリジンは開いたドアを潜り、真っ暗な部屋へと入った。
自動ドアはすぐに閉まり、光はどこからも入らなくなった。
「暗いな・・・」
誰に言うともなくオリジンは呟いた。が、
その呟きにどこからか答えが返ってきた。
『ヨウコソまざーこんぴゅーたーるーむへ。
らいとあっぷシマスノデ少々オマチクダサイ』
オリジンはあまりのことに目を開いて驚いていたが、
光と共に、奥になにか大きな物が見えてきたので
今度はそれが何なのか見きわめようと、目を細めた。
光は照らしきる前に止まった。薄暗い。
だが、その代わりに部屋の奥にある大きな機械が、
ネオンのようにきつく輝いて、部屋をエメラルドグリーンに照らした。
オリジンはゆっくりとそれに近づいた。
機械の光は心臓のように、ドクンと強く輝いたかと思うと次は弱く光る。
コードからも光は漏れて、血のように流れていた。
オリジンが機械の前に立つと、今度は機械の中心の空洞に
黄金の大きな顔が立体に映し出された。
「・・・・・・今話したのは、お前か?」
『ハイ。私デス』
黄金の顔を持つ機械は答えた。
『私ハ、とーるの全こんぴゅーたーを管理シテイル
まざーこんぴゅーたー、"おず"デス。
以後ヨロシクオ願イシマス。おりじんサマ』
「・・・名乗った覚えはないのだが」
『りうす様カラ既ニでーたヲ頂イテオリマスノデ』
「リウスから・・・?
そうか、すべてのデータはお前に託されているのだな。オズ」
『ハイ。ソノ通リデス』
オリジンは口に手を当てて考えた。
この"オズ"にはすべてのデータが託されているという。
と、いうことはトールのことも、リウスのことも、
そして、自分が連れてこられた理由もオズには答えられるのではないか。
試してみる価値はある。
・・・まずは簡単な問いからしてみることにしよう。
「オズ。この国、トールは一体どのような所なんだ?」
『・・・とーるハ現在存在シテイル国ノ中デ、最モ発達シテイル国デス。
スベテハ機械デ成リ立ッテオリ、不自由ナク暮ラスコトガデキマス』
・・・不自由なく、か。
私にとってはかなり不自由なのだがな。
『マタ、とーるノ特徴トシテ海ノ中心部ニ作ラレタ
人工島ノ上ニ国ガアリ、他国カラノ攻撃ヲ防グ役割ヲシテイマス。
周囲ニハばりあモ張ラレテオリ、外部カラノ強行進入ハデキマセン』
「外部からの攻撃か・・・。
そういえば、この国は戦争中だったな」
『ハイ。コチラヲゴ覧クダサイ』
オズの顔の前に二つ映像が映し出された。
一つは灰色をした大きな城で、造られてから相当年月がたっていると思われた。
雪が降り積もり、城の壁には氷が張っている。
もう一つは高い塔で、こちらも年月を感じさせた。
岩山の上に建っており、その周りは砂漠が広がっていた。
『左ノ映像ガ"ふぇんりる王国"、右の映像が"おーでぃーん共和国"デス。
ドチラモ我ガ国とーるトハ敵対関係ニアリマス』
「ふむ・・・」
オリジンはここに連れて来られる前からこの3国についての知識があった。
文明が発達したことにより、更に激しさを増す戦争。
もう何年にも渡り、この3国のいがみ合いは続いている。
(私が連れてこられた理由・・・。
この戦争に関わっていることは明らかだ・・・)
「オズ」
『何デショウ』
「私が何故、このトールに連れて来られたのか・・・お前にはわかるか?」
オズは黙った。
そして、フェンリルとオーディーンの映像を消し、
かわりに"protect"という赤い文字を表示させて言った。
『ソノ質問ニ答エル事ハデキマセン。
ぷろてくとガカカッテイマス』
プロテクト・・・。
極秘にされているのか?
オリジンは舌打ちした。
『タダ・・・』
オズが付け加えた。
『私カラ言エルコトハ、貴方ハ戦力ノタメニモ連レテラレタトイウコトダケデス』
(『にも』・・・?ということは、やはり戦力以外でも使用されるということか)
『ふぇんりるノ"ふぇんびーすと"ト、おーでぃーんノ"ふらむべるく"ニ対抗スルタメニ・・・』
「フェンビースト・・・?フラムベルク・・・?」
オリジンは初めて聞いた名前に眉を寄せた。
オズの説明を待つ。
しかし、それは別の所から発せられた声によって、聞くことはできなくなった。
「誰ですか〜?私の名前をよんでいるのは」
オリジンに一気に緊張が走り、すぐに声のした、先ほど入ってきたドアの方を向いた。
声をかけられるまで気づかなった自分を呪って。
扉は開いていた。その扉の両脇に二つの影が、共に壁に寄りかかっているのが見えた。
この部屋よりも廊下の方が明るかったため、逆光で顔を判断することはできなかったが。
ただ、その二つのシルエットが普通ではない事には気がついた。
二つとも、頭に何かが生えている。
オリジンが、その影が何なのか見極めようとじっくりと見ていたところ、
一つの影が近づいてきた。
多分、さっき話した方だ。声からして男のようだが・・・。
近づいてくるにつれ、オズの光がその人物をエメラルドグリーンに照らし出す。
足の方から順にその光に当てられて、オリジンの前に来たときには
上から下まではっきりと見えていた。
刺すような金色の瞳。肩までたらした銀色の髪。
そして、生えている獣の耳とシッポ。
「・・・お前は、誰だ?」
オリジンはその黄金の瞳を見ながら言った。
言われた男はにこりと笑うと軽く礼をして挨拶をした。
「私はフェンビースト。フェンリルの者です。
あっちにいるのはオーディーンのフラムベルク。
以後よろしくお願いしますね♪オリジン」
緊張感のカケラもない笑顔で、フェンビーストはオリジンの手を両手で取ると、
ぶんぶんと振って握手した。
オリジンはその手を振りほどくと、フェンビーストを睨んだ。
「フェンリルとオーディーンだと?一体何をしにきた?
・・・私を消すつもりなのか」
敵国の兵士ならばそうするだろう。
戦場に出す前に、危険な芽は摘み取っておく。
しかしフェンは首を横に振った。
「まさか。精霊なんて殺せるわけがないでしょう?」
フェンは笑顔そのままでオリジンの頭をポンポンと叩いた。
「しかも精霊の王じゃないですか、オリジンは。
そんな物騒なこと言っちゃだめですって〜」
ポンポンと叩いていた手が、今度はよしよしに変わったので
オリジンは、沢山の閃光を体から放出した。
感電に似た感覚が、フェンの右手に走った。
「・・・っ!?アイタタタ;
いきなりなにするんですかぁ!!」
フェンは痛めた手を撫でている。
その隙にオリジンはフェンから離れた。
「私はトールの駒になったつもりはない。
が、お前達が私に危害を加えるというのなら私はお前たちを攻撃する」
オリジンは未だに体から閃光を放出している。
「ふぅ・・・」
奥で事の成り行きを見ていたもう一つの影・・・フラムベルクがため息をついた。
そして、フェンを一瞥すると、こちらに向かって歩いてきた。
「まったく・・・。こんなこともお前ひとりではできないのか?フェン。
これだから性格激悪イヤミネコは・・・」
「ネコじゃありません!オオカミです!!」
フェンがすかさず反応する。
が、フラムベルクは無視して、オリジンの方に歩み寄った。
フラムベルクは女だった。炎のように真っ赤な瞳と髪、服。
そして、頭には羊のようなツノが生えていた。
その真紅の瞳は、まっすぐにオリジンを見て言った。
「私達はお前を殺そうとは思っていない。
だが、やはりお前のようなものがトールにいるのは
見逃すことがでこない。・・・そこでだ」
「是非仲間になってくださいvオリジンVv」
フラムベルクの話の途中で、フェンが割り込んだ。
シッポをブンブン振っている動作は、まるで犬のようだ。
背後ではフラムベルクが鬼の形相でフェンを見ていたのだが
幸いなことに(?)それはオリジンだけにしか見えなかった。
「仲間だと・・・?フェンリルやオーディーンになって何か変わるというのか?」
「違いますよ〜!私達の仲間です!!」
「???」
「つまりだ・・・」
前にいたフェンをどかして、フラムベルクがづいと出てきた。
「私達とフェンリル、オーディーンは繋がってない。
言うなれば私達は反逆者だ。
表向きにはそれなりに国に貢献しているが、
私は戦争をすることを快くは思っていない。
・・・たとえオーディーン様の命令だとしてもだ」
フラムベルクは最後の言葉を小さく呟いたが、オリジンには聞こえていた。
だが、あえて深くは追求しなかった。
「国に反逆している者達の集まりか・・・。
たしかに、私もその中に入るのだろうな」
「じゃあ!」
フェンが期待のまなざしでオリジンを見たが
オリジンは間髪いれずにその先を言った。
「だが、私はお前達のことを知らないし、信用もできない」
「だから仲間には入れないと?」
フラムベルクがオリジンの言葉を引継いだ。
「そうだ」
「えーーーーーーーーー!!!ひどいですよオリジン〜;」
「話は以上だ。じゃあな」
オリジンは二人の横を通り、マザーコンピュータールームを出ていった。
フェンはオリジンを追いかけようとしたがフラムベルクに止められた。
「外に出たら兵に見つかる。行くぞ」
フラムベルクはフェンの腕を掴んだまま姿を消した。
To be continued........
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3人のご対面シーン。
僕的にはさっさと仲間になってほしいんですが、
オリジンはそんなに簡単に気持ちを変えないだろうと思いまして。
あ、フェンの変身シーンはカットしました。
また別のところで出す予定。
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2004.8.16 |